会社、学校、サークル、現代社会においてはどのようなコミュニティーでもアイディアを求められることがあります。僕も中学校の教員をやっていましたが、授業づくりはまさにアイディア出しの連続でした。
アイディアを出すという力は、AIの隆盛などによってますます重要度が増してきているように感じます。
そこで今回は、アイディアの作り方について
『妄想する頭 思考する手』 暦本純一 (祥伝社 2021年)
という本を参考に学んでいきたいと思います。
著者、暦本純一さんとは?
著者の暦本さんは、ソニーコンピューターサイエンス研究所に所属する研究者です。様々な発明をされ、論文賞などの受賞歴もたくさんありました。中でも驚いたのが、「SmartSkin」という技術を発明された方だということです。
「SmartSkin」とはスマートフォンなどに搭載されている技術で、画面を二本の指で拡大したり縮小したりするあの機能のことです。ほとんど毎日使っていますよね。
暦本さんは「SmartSkin」のような新しい技術を日々考え出し、形にしていくまさに発明家です。そんな暦本さんの特許取得数は100以上。ぜひ暦本さんからアイディアの作り方を学んでいきましょう。
アイディアの源泉は「妄想」である
現代社会は大変革の時代です。次から次へとイノベーションが生まれ、僕たちの目に見える生活も日々変化しています。
普段意識していませんが、これらの変化は誰かのアイディアから始まっています。便利だなぁ~と思っている商品には、仕組みを考えた発明家やそれを商品化までもっていった技術者の存在があります。
暦本さんはそうした発明家の一人です。そしてその暦本さんがアイディアの源泉にあるのは「妄想」であるというのです。妄想は一般的に「根拠もなくあれこれと想像すること。また、その想像。(デジタル大辞泉)」を指します。
妄想とはなにか
妄想の類義語として想像があります。想像とは現状から未来を考えることです。今の社会にはこんな課題があるから、解決するためにこんな技術があったらいい、と考えることが想像です。
一方で妄想とは、現状や具体的な課題とは関係なく、個人的な「面白い」を軸に発想していくことです。暦本さんは想像が「真面目」であるのに対して、妄想は「非真面目」だと表現されます。価値を置いている軸が異なるということがポイントになります。
なぜ妄想なのか
想像ではなく妄想が重要なのはなぜでしょう。それは
未来は予測できない
からです。想像や予測は、ある程度この先に見通しが立っていることが前提です。しかし、現実世界は予測不可能です。こういう世の中になりそうだからこんなものが必要になるはず、といった真面目な考え方では革新的なアイディアを生むことはできません。非真面目に妄想しているからこそ、新しい価値や必要を生み出すことができるのです。
妄想からアイディアへ
誰しも妄想することはあります。誰にもわかってはもらえないけど、伝えることすらしないけど面白いと思ってることはありますよね。まさに妄想です。
しかし、それがアイディアにあることはほとんどないはずです。会社や学校でこれ考えてみたんだけど、と提案することはまずありません。しかし、暦本さんはそれをやるというのです。やるどころか、妄想から始まったことが、発明になっていると言います。
では妄想をどのようにアイディアにしていくのでしょうか。
クレーム(主張)を作る
妄想は頭の中にとどまっていては意味がありません。そこで暦本さんは「言語化」が重要だとしています。
具体的には「クレーム」という形に落とし込みます。クレームとは一般に言われる文句的な意味ではなく、主張といったニュアンスです。
例えば、僕の好きなアーティスト、レキシさんを例にとります。
歴史と音楽をかけ合わせたら面白そうだなという妄想を思いつきます。ここでは自分だけが面白いと思っていればOKです。次に、それを他人に伝えるためにクレームにしていきます。
クレームの条件は、①なるべく一文、②検証がすぐにできる/しやすいということです。
「歴史の一事件/一人物の紹介を一曲の音楽にする」
といった形です。これで頭の中の妄想が一つ具体化されました。
クレームを即検証する
クレームはできたらなるべく早く検証に取り掛かるのがよいとされています。クレームは素材なので、時間が経つと鮮度が落ちてしまって、何が面白かったのか、見失ってしまうからです。
今回の例であれば、まず一曲作ってみます。すぐに形になることもあれば、失敗することもあります。クレームはあくまで仮説なので、失敗の可能性は十分にあります。
暦本さんはむしろ失敗の方がよいとも言っています。それはだれでも簡単にできることなら、他の誰かが思いつくこともあるからです。簡単にはできなない、失敗をたくさんしてしまう、それこそがアイディアの面白さであり、価値だといいます。
アイディアは悪魔度と天使度が重要
アイディアの価値を考えるうえで、「悪魔度」と「天使度」という概念が紹介されています。これは黒澤明監督の「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」という言葉から来た大年です。
悪魔度とは、細心さや技術的な困難さのことです。つまり「悪魔度が高い」というのは専門性が求められるということです。
天使度とは、悪魔度とは反対に、素人的な発想の大胆さ、純粋さのことです。子供のように無邪気で自由な発想は天使度が高いということです。
妄想は「既知」×「既知」
妄想は自分の好きなことから始めることが大切です。あくまでも自分が「面白い」と思うことが根幹にありますで、妄想していることがつまらない、興味ないでは意味がありません。
自分の興味のあること、先ほどの例でいえば、「歴史」と「音楽」のように好きなジャンルを組み合わせて考えていきます。
ネタがない!という時にはインプットを増やします。未知のものを既知のものにしてしまえばいいのです。その際、有効なのが集団で行うこと。自分が見つけた面白いものを紹介し合うグループワークなどができると、自分のインプットにもなります。
大切なのは「眼高手低」でいること!
このようにして妄想がアイディアに変わっていきます。その際に大切なのが「眼高手低」というあり方。
「眼高手低」、元の意味は頭でっかちで、技術がおろそかといった意味です。しかしこの本では手低の意味を、とにかく手を動かして試してみる、としています。理想は高く持つが、手はたくさん動かして試行錯誤しなければいけないということですね。
特に天使度の高いアイディアは具体化することが難しいこともあります。その際に大切なのは悪魔的な技術を求め、実際に手を動かしてみることです。
妄想を許容する社会へ
現在の日本は経済の衰退や人口減少もあり、「選択と集中」ということが重要視されています。しかし、選択と集中には未来が予測可能であるいう前提があります。このような真面目な姿勢だけではイノベーションは生まれません。
妄想を許容して、そこから生まれてくるアイディアを真剣に考えていく。かつての日本はウルトラマンやドラえもんなどのSF作品がヒットしていました。妄想大国だったわけです。
妄想は既知の数だけ広がっていきます。それぞれの人が自分の価値に基づいて妄想していたらきっとイノベーションは生まれるはずです。
まとめ
今回はアイディアを出す方法について学ばせてもらいました。クリエイティブな仕事をしたい、という気持ちがある人は多くいます。しかし、実際に何か考えてみるとなかなか難しい。
そんな時に大切なのが「妄想」なんですね。
著者の暦本さんはものすごい数の発明をされてきた方ですが、その後ろにはものすごい数の「妄想」があったのだと思います。僕も非真面目に妄想をしていきたいと思います。
この本では「妄想」からアイディアへ育てていくプロセスも、実際の発明に沿って丁寧に説明されています。そこもとても面白いのでぜひ読んでみてください。
【参考文献】
Amazonのアソシエイトとして、まなぶるねすは適格販売により収入を得ています。
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